コストと耐用年数を両立するステンレス材質選定基準~SUS304 vs SUS316~

 化学工場などの配管やタンクなどでステンレスを使用することは多いと思います。その際にステンレスが筆頭候補になりますが、そのときのランク付けの定量化はなかなかなされていません。もちろんSUS316の方が耐用年数は長いですが、コストは高くなってしまいます。どんな時にSUS316を使うべきかを、腐食に対する影響度の高い①温度②塩化物濃度③pHに絞って調査を行いました。
 結論から書くと、SUS304は、常温&pH 7という安定的な条件でさえ、塩化物濃度が100ppm程度存在すると、腐食発生期間が2年となります。一方で、SUS316の腐食発生期間はSUS304の100倍である200年と長期間化しますが、コストは1.1倍程度です。つまり、塩素が少しでもある条件でステンレスを使用する場合は、SUS316を使用すべきと結論づけることが出来ます。
 この結論に行きつくためには、いくつかの腐食に対する基本的な知識に始まり、海外の腐食専門家論文を紹介する必要がありますので順に説明します。
 ステンレス腐食は確率的に発生する孔食から発生することがほとんどです。一旦孔食が発生すると、そこを起点の腐食が進行していきますので、孔食が長期間発生しないステンレス材質を選定することが重要です。
 プラントでの材質選定に向けて、簡便な方法はプラント同溶液/同温度条件において、プラントで使おうとしている材質の試験片を浸漬し、孔食が発生するかどうかを見ていく方法です。しかし、この方法だと数年間のテスト期間が必要となります(一般的に孔食は数年必要なので)。テスト期間を減らす工夫の1つ目として、温度を高くして加速試験を実施する方法がありますが、それだけだと材質毎の相対的な孔食発生期間を比較することは出来ますが、「何年後に孔食が発生する」という一歩踏み込んだ予測まではすることが出来ません。
 そこで、腐食は電気化学(電池)の原理に基づいて発生するという原理原則からのアプローチと、孔食の発生を統計学的に解析するアプローチを組み合わせることにより、予測式を立式している論文がありますので詳細は論文を読んでみてください。電気化学的なアプローチとは、エネルギーを電位の形で与えて、電位を低い方から高い方に変化させていくときに、ある電位になった時に腐食(孔食)が発生し、その電位を孔食電位として孔食発生時間の予測因子として使います。電位の変化はすぐに終わるので、材質選定のラボテスト時間は大幅に短縮できるのでお勧めです。

【参考文献】
L. Lazzari, 4 - Pitting and Crevice Corrosion, in: L. Lazzari (Ed.), Engineering Tools for Corrosion, Woodhead Publishing2017, pp. 61.
腐食メカニズムと余寿命予測
統計解析のアプローチも含めて、日本語の本の中では分かりやすい。上記の論文は英語で敷居が高い人はこの本から読んでみても良いかも。
腐食の電気化学と測定法
腐食のイロハが書かれている本。