『石油元売各社(ENEOS,出光,コスモ)』への転職/就職に向けた製油所運営の技術力比較

 石油元売会社の主要企業としてENEOS、出光興産、コスモがあります。国内燃料油の需要は、今後10年間で約2割減少する見込みで、製油所産業は成長産業ではなく(※1)、転職/就職先として敬遠する方もいるかもしれません。ただ、確かに需要は減少するかもしれませんが、逆に言うと、需要の予測は他の産業に比べると正確であり、一気に需要や供給が減少する訳でないため、10年ぐらいは安定していると考えることも出来ます。製油所産業とは異なる、最先端の材料を扱う企業の聞こえは良いですが、世界と勝負する必要もあり、シェアもすぐにガラッと変わってしまい、突然の撤退なども可能性としては高くなってしまいます。例えば、電池関連(正極剤,負極剤,セパレータ,の電解液)のシェアNo.1は、もともと日本勢だったのですが、5年間で全材料海外の企業に変わってしまいました。今回の記事では、ひとまず10年間ぐらいは安定した企業に勤めたいという方に向けて、石油元売会社の中でも、どの会社がおすすめなのかを、各社の技術力の観点から考えていきたいと思います。

 技術力を比較する上で重要なのは、人口減少に伴い、国内燃料油需要が減っていくことに対する、各社の長期的な対策です。対策内容の方向性は各社大きく変わらず、2つですが、どちらも難易度が高く、各社の技術力が試されている状況です。
 対策の1つ目は、製油所を閉鎖し、稼働率を上げる対策です。需要が減ったにも関わらず、製油所をそのまま運転し続けると、運転していない期間が多くなり、損失に繋がってしまいます。ただし、製油所を閉鎖すると、コンビナート内の他の製品に影響を与える可能性があり、コンビナート内での複数会社の相談や調整が必要であり、難易度は低くありません。
 対策の2つ目は、デジタル技術を活用したトラブルを回避した安定供給です。デジタル技術で事前検知やミス防止をすることで、トラブルを回避し、需要に対しては確実に供給できます。1つ目の対策と同様に、こちらの対策も難易度が高く、各社は投資家向けに弱音を吐いているほどです(※2)。プラント設備の稼働年数は半数が稼働年数50年以上と高く(※3)、設備のトラブル発生確率が高くなっているためです。
 これら2つの対策は高難易度である状況ですが、各社の技術力に関して、定量的に比較していきます。製油所の定量的な指標として、稼働率が一般的です。各社で稼働率を比較するのに、注意するポイントがあり、定期修繕(定修)が考慮されているかどうかです。

 定修期間を含まずに稼働率を計算する場合は、トラブルの発生に重きを置いており、定修を含んだ稼働率よりも高い数値となります。ただし、定修を含む稼働率が、実際の年間の利益に直結するため、定修含むか含まないかのどちらの数字で各社を比較するのか難しいところです。各社の公表する数字も定修期間の考慮有無は異なりますので、比較がややこしいですが、稼働率は上図のように、コスモ>出光興産>ENEOSの順に高いです(ENEOSは定修を含まない値のみの公表で、相対的に高めの値が出る計算方法であるにも関わらず、3社の中で稼働率が一番低いです。一方で、コスモは定修を含み、相対的に低めの値が出る値が出る計算方法ですが、3社の中で稼働率が一番高いです。)。
 では、本当に稼働率が一番高いコスモの技術力が一番高いと言えるのでしょうか。稼働率はあくまで高利益を得るためのファクターの一つですので、本ブログでは、一歩踏み込んで、直接的に利益を比較する方が良いと考えました。原油処理量あたりの営業利益を各社比較することで、技術力の高い企業を炙りだしていきます。

 原油処理量あたりの営業利益(億円/kL,2020~2024平均値)は、出光興産(45)>コスモ(39)>ENEOS(23)の順で大きくなっております。年毎の順位の変動は上図のようにありますが、出光の技術力が一番高いといえるでしょう。確かに、コスモの稼働率は高いかもしれませんが、人件費などの固定費や設備投資費などが高いため、利益は出光の方が出ているのだと推定されます。設備投資費に関しては、コスモと出光興産は製油所関連の投資額が公表されているため、利益の違いを知るべく、調べてみました(ちなみにENEOSは製油所関連の分野のみの設備投資額を公表しておりません。)。

 出光興産とコスモの原油処理量あたりの設備投資額(億円/千kL)を比較してみると、2019~2023年の平均値(億円/千kL)は出光興産(1.1)<コスモ(1.4)となり、コスモに比べて、出光興産の方が設備投資額は低いことが分かります。つまり、出光興産は設備投資しなくても、上述の通り利益は出しており、石油元売り会社の中では、最も技術力が高いと言えるでしょう。
 冒頭で記載の通り、石油元売会社は、需要が減っていきますが、一気に減ることはなく、意外と10年スパンで考えれば、安定しているという考え方も出来ます。石油元売会社の中で、稼働率が高いのはコスモですが、少ない投資で利益を最も出しているのは出光興産です。石油元売会社に転職/就職する場合、高い技術力の観点からは、出光興産がおすすめです。
 ちなみに出光興産は、就職難易度の割に年収も高く、OPEN WORK記載(30歳)の年収は662万円とENEOSに次いで2位であり有価証券報告書記載値(2017年~2021年平均)は925万円と化学業界でTOPです

※1 出光興産 中期経営計画(2023~2025年度)
※2
●コスモ

製油所の経年劣化するなかで保全の効率を高めて、収益の源泉である製油所稼働率を維持することは簡単なことではない。

「コスモエネルギーホールディングス(証券コード:5021)2023 年度 アナリスト・機関投資家向け決算説明会 質疑応答」より引用

●出光興産

製油所トラブルについては、大きなトラブルはないものの、装置の老朽化により以前より難しい状況にあるが、引き続き製油所の安全安定操業に努めていきたい。

「出光興産(5019)2022 年度 決算説明会Q&A」より引用

ENEOS

これまで必要な投資ができていなかった反省も踏まえ、高経年化が進む設備などへの投資を進めてきている。UCL のレベルがサステナブルなものになるよう、「時間」と「ヒト」が必要にはなるが、リターンは十分に得られるため、引き続きコストをかけて取り組んでいく。

「ENEOSホールディングス(5020) 2023 年度決算 アナリスト説明会 Q&A」より引用
※3 産業保安のスマート化
※4 グラフ中の数字がない年度に関しては、各社の統合などによりデータがないことが理由です。
※5 参考(各社営業利益の推移)

※6 (追記)経済産業省が選ぶDX銘柄、注目企業を選定しております。選定がはじまった2015年から2023年までのDX銘柄、注目企業へのノミネート数は、ENEOS(5件)>出光興産(1件)>コスモ(0件)となっており、ENEOSがDX力は最も高そうです。
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